トランスフォーマー

初めに描いたテーブルのデザインいろいろ

演技をするにあたって、実際にマジックを表現する道具と同じくらい大切なのが、テーブルです。出てきたものや使うものを置いておくのはもちろん、テーブル自体がマジックの現象を起こす道具であることもあります。中にはテーブルを全く使用しないパフォーマーもいますが。

私が使っているのは地味な箱状の黒いテーブルで、後述の事情により2度作り替えています。基本的な形状はずっと変わっていませんが、現在のものは初期のものより二回りほど小さく、シンプルな形になりました。

初期のものは学生サークルの発表会演技のために作ったので、それを持って公演に出掛けることなど全く念頭にありませんでした。発表会の時はトラックをレンタルして皆の荷物をまとめて運ぶため、部室から練習場へ移動する時に一人で運べるサイズであればよく、「大きい方がいろいろ隠せて便利だろう」という浅はかな考えのもと、かなり大きなものを作りました。当時の設計図を見ると、天板が60センチ四方になっています。現在のものは50センチ弱なので、無駄に10センチも大きかったのです…。敢えて意図して目立たせるのでなければ、できるだけ小さくシンプルな方が良いのですが、それは後に経験から学んだことでした。

ただでさえ無駄に巨大なこのテーブルを更に大きく見せてしまう要素は他にもありました。テーブルの背面に三角形の板と支柱が合体したものを立て、そこに藍染の布を掛け、ちょっとした飾り台のような造りにしてあったのです。とはいえ、この板は単なる装飾ではなく、当時の手順を行うのに必要な構造ではありました。

テーブルの設計図。背面の板についての記述もある。

背後にあるのが背面の板のある初期の頃のテーブル

普段道具を置いておく部室はそれほど広くはないので、いくら大きくても良いとはいえ、テーブルは分解してしまって置けるようにしなくてはなりません。背面の板と支柱は上手く折りたたんで本体に収納できるようにしてありましたし、天板と足は分解でき、ボルトで留め付けるようにしてありました。これらを練習のたびに合体させるのですが、ある時、その様子を見ていたある後輩がこう言いました。

「それは…基地ですね!」

は?…(^_^;)???

この後輩というのが、ちょっとヲタっ毛のある人物だったので、その手のことを言っているのかと考えて軽く聞き流していたのですが、なおも絡んできます。背面の板を本体に取り付けてテーブルが完成すると、こう叫びました。

「トランスフォ~~~~ム!」

???

あの、ハリウッド映画にもなった「トランスフォーマー」のコトを言っていたのだと思いますが…当時は勿論映画化もされておらず、というか、「トランスフォーマー」とはそもそも小説やゲームだったわけでもなく、日本のメーカーが作っていた変身玩具だったので、もう、その道のオタクさんか、男子のお子様くらいしか知らないモノだったのです。オタクでも男子でもない私には、まったくもって意味不明の雄叫びでした。

それにしても、こういった「組立式」の物体は、何かと男ゴコロをくすぐるのでしょうか?スーツケースにきっちり収めた私のテーブル一式を見たとある男性プロマジシャンに「え!なにこれ、テーブルになるの!?組み立てて見せて見せて!」と、お子様のように無邪気にせがまれたことがあります。

さて、学生時代のサークル活動が終わると、なんとなく、コンテストに出掛けるようになりました。初参戦に選んだのが、よりによってアメリカの割と著名な国際大会のモノだったのですが、決して「息巻いて世界進出」を目論んだわけではなく、それが唯一知っているコンテストだったからです。そんなことはともかく、海外へ行くともなると、道具一式、全て自分で運ばなければなりません。大きすぎた初代テーブルの天板は、通常のスーツケースに入る大きさでなかったので、あろうことか、「テーブルを入れるための巨大なケース」を作ってしまいましたっ…!厚さ1センチの分厚いベニヤ板でテーブルの全面を囲む頑丈なもので、飛行機の預入荷物にしても大丈夫!中にもたっぷり道具を詰められます!キャスターも取っ手もついていて、持ち運びに便利!惜しむらくは、中身よりもケースの方がずっと重いこと…。

コンテストに出向く時は、この巨大な木製ケースの他に普通のスーツケースも携行し、こちらにはテーブルの足と着替えなどの日用品を詰め込んでいました。幸い北米発着便はエコノミークラスでも2つ荷物を預けることができたので(今は違うかも)特に追加料金を取られることはありませんでした。が、大きな荷物を持って一人で移動するのはかなり難儀。とりわけ、ヨーロッパは未だに石畳の道が多く、キャスターがついているとはいえ、でこぼこ道を徒歩で移動するのは大変でした。

テーブルが大き過ぎる、という指摘を第三者から何度か受けていたこともあり、ついに2代目テーブルを製作することを決意しました(というか…専用ケースを作る前に、スーツケースに収まるように一回り小さくすることをナゼ思いつかなかったのか、未だにナゾです)。しかし、スーツケースにテーブル本体を入れるなら、それまで入れていたテーブルの足はどうしたら良い?そうか!これも折り曲げて本体の中に納めてしまおう!ということで、足を真ん中から切断し、蝶番で繋いで折り畳めるようにしました。この時に手順も大幅に変更したため、背面の板と支柱は不要になりました。

2度めの転機が訪れたのは、公演で北海道を訪れた時。それは2度目の北海道公演だったのですが、1度目の時と同じ方にお世話して頂きました。その当時使っていたスーツケースは、キャスターが小さくて、小さい段差でもすぐに引っかかってとても扱いにくく、何度も飛行機に載せているのでキャスター自体にもダメージがありました。不便そうに運んでいる私を見て、不憫に思ったのでしょう。なんと、2度めに北海道を訪れた時、公演の世話役の方が私のために新品のスーツケースを買っておいてくれたのです!

うん!感激!感激するところです、ココは!

しかし…テーブルのサイズよりビミョーにスーツケースが小さい…。無理して入れられなくはないのですが、無理がたたって近い将来壊れそうです。そして、国内線普通席のチケットでは、大きな荷物2つは預けられない(宅配便で送りました)。でも収納式キャリアがついているし!キャスターの車輪は大きくて使いやすそうです!有難く!頂戴しましたが!…テーブルはまた作り直さなきゃね…

そして現在使っている3代目テーブル天板を製作することに。この際更にコンパクトに作ることを目指し、機能的にも幾つか改良を加えました。結果的に良かったのですが、テーブルを作る作業はやはりなかなか大変なので、「スーツケースに合わせて作り直す」ことを想像した時はちょっとばかり愕然としました…

因みに、足の方は真ん中でぶった切ったものの、学生時代からずっと同じ物を使っています。1本足に見えますが、実は4本の角材に天板を支える腕木と根本の足板を取り付け、ベニヤ板で側面を補強してあります。これを蝶番で繋ぎ、本のように開閉できるようになっています。割合簡単に作れるのに頑丈な構造で、同級生が作っていたのを見て(恐らく無断で)アイデア借用しました。発案者本人は、軽量化のために一部にバルサ材を使うなど更に工夫をしていましたが、そのへんまで真似するのはさすがに気が引けたのか、敢えて普通の南洋材を使っています。毒を食らわば皿まで、という根性は、当時はなかったみたいです。

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category: 付喪神