鈴彦姫【和物編】

演技中には大小洋邦取り混ぜた鈴が出てきます

演技中には大小洋邦取り混ぜた鈴が出てきます

私の演技にはいろいろな「鈴」が登場します。小粒なものから大粒なものまで。日本の鈴から西洋の鈴(ベル)まで。演技の中では大きな舞扇を使うので、「扇子のマジックをやるヒト」と覚えられていることが多いのですが、よくよく考えると、異様なまでのこの鈴の使い込みは他に類を見ない気がしますし、むしろこちらの方に演技の特色が表われているかもしれません。あるいは扇子と鈴で双輪を成した演技とも言える気がします。とはいえ、「鈴」の部分が今の形に落ち着くまでには、実に紆余曲折を経てきたのです。

そもそも私の中では「扇子と鈴」はセットになっているものでした。学生の時にオリジナルのモチーフで手順を作ることにした時、「扇子を使う」ことは決めていたのですが、その時「鈴を使う」ことも当たり前のように頭の中にあった気がします。

発想の元となったのは「御神楽(みかぐら)」という踊りです。私は子供の頃、民踊を習っていました。日本舞踊でもなく、民謡でもなく、あくまで民踊。日本各地に伝わる仕事歌の踊りを踊るのですが、盆踊りやソーラン節の類といえばわかりやすいでしょうか。年に1度、会全体の発表会があり、フィナーレでは100人くらいの出演者全員が舞台に出揃って踊るのですが、その演目として度々選ばれたのがこの御神楽でした。詳しいことはよくわからないのですが、もともと神社に奉納するための踊りだったのではないかと思います。太鼓の音に合わせて、神楽鈴を振りながらダイナミックに扇子を翻してリズミカルに踊ります。

日本舞踊を習うには恐らく高額なお稽古料が必要なのでしょうが、私の通っていた民踊教室の月謝はとても安価でした。恐らく先生方はほぼボランティアで教えていて下さったのだと思います。練習場所はさほど広くはない先生方のお宅や同じ教室の子の家、公民館などでした。いつも畳や板の間で、というわけにも行かず、土足で使う部屋に大きなブルーシートを敷いて練習していた時期もありました。運動靴のままではさすがに踊りの足運びがままならないので…。このような状況からお察しいただけると思いますが、習っている子達はさほど裕福な家庭の子ではなかったわけです。御神楽を踊るに当たって扇子は買い揃えたものの…当時は知る由もなかったのですが、神楽鈴の方は随分値が張るシロモノでした。そこで大人たちは知恵を絞り、コドモに手軽に持たせられる手作り神楽鈴を考案したのです。それは…

泡立て器の神楽

泡立て器の神楽!金銀のリボンでデコるなど、涙ぐましい努力が…。御神楽を踊った時には紅白のリボンを巻いていました。

「泡立て器に鈴をくくりつける」

(^_^;)

なかなか良いアイデアだと思いますよ。買えば1万円以上はする神楽鈴が、数百円で手に入るのですから…!

この思考の筋道は、神楽鈴を使ったマジックの演技を作り上げる際にも見事に継承されてしまいました。というよりもむしろ、私の中では「神楽鈴=泡立て器に鈴をくくりつけたもの」であり、この世に神楽鈴なる小道具が販売されていることなど全くもって念頭になかったとすら言えます。

お陰で、ユニークなアイデアが生まれましたよ。例えば、初期の頃の手順ではこんなものを使っていました。

100円ショップのステンレスボウル

100円ショップの小型ステンレスボウルです。→

現在はマジックの道具としての役割は終え、現役の調理器具として台所で活躍中です!

コレを使って一体どんな手順を演じていたかというと…

  1. 空中から銀色のコインを次々と取り出し、ボウルに入れていく
  2. おもむろに取り出した泡立て器でボウルの中身をかき混ぜる(泡立て器の正しい使い方です!)
  3. ボウルをひっくり返すと銀色の吹雪が舞い、泡立て器には銀色の鈴がくっついている!すなわち、コインをかき混ぜたら銀粉と鈴に変わった、という現象!ちゃんと鈴の音も鳴らし、鈴がついたことをアピールしますよっ!

今思えば笑っちゃうような陳腐なアイデアです(^_^;)

その他、やはり100円ショップで買った小型泡立て器数本を扇形に繋いだものを「まるで扇子のように」出現させたり、いろいろ試行錯誤していました。

さて、長い年月を経てようやく気付いたのは「いくらなんでも泡立て器はないだろう」ということ。そして「本来御神楽には専用の鈴を使っているに違いない」ということ。というワケで、遅ればせながら探しに行ってみました、神楽鈴を、仏具店通に(名古屋には仏具・神具を商う店が軒を連ねた通りがあるのです)。そして探し物は案外簡単に見つかりました。と同時に本来のお値段の高さも目の当たりにします。

子供用神楽鈴

子供用神楽鈴

とてもじゃないが…買えない…

ここで、店の陳列棚に意外なものを発見しました。本物の神楽鈴に比べると随分小さくてチープな感じはしますが、大きさや重さ的には今まで使っていたエセ神楽鈴に近く、本物よりむしろ扱いやすそうなものが。そう、紙と木で出来た子供用の神楽鈴です。

この神楽鈴を得たことで、その形状から新たなアイデアを思いつき、手順に付け加えていくことになりました。それまで神楽鈴は小道具的にしか使っていませんでしたが、鈴自体をマジックとして組み込んだことで、繋がりに無理のあった部分が綺麗にまとまり、扇子と鈴の組合せの必然性がより確かになっていったように思います。

イロイロ買い集めた鈴モノ

イロイロ買い集めた鈴モノ。そのうち付喪神に化けるのでしょうか。

さらに西洋のハンドベルや、小さな鈴を組み合わせて作った洋装用のアクセサリーであるイヤリングも加わり、鈴のパートの存在感がますます大きくなっていきました。

後半の「洋物編」は公演終了後に公開します。

※鈴彦姫とは鈴が化けた妖怪で、長く生きた道具に霊魂が宿ったとされる付喪神(つくもがみ)の一種です。

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